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Calculation |
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相続税はどのように計算されるか |
![]() 財務省が発表している「所得・消費・資産等の税収構成比の推移(国税)」という資料によれば、国税収入は、昭和63年から現在(平成26年)まで一貫して所得税や法人税といった直接税から消費税へシフトしています。国税収入における比率で、直接税は二税合わせて69.7%から51.7%へ、消費税は18.9%から43.5%へ推移、一方相続税、贈与税など資産課税は常に脇役で、昭和63年では11.4%あったものが現在(平成26年)では4.8%と25年前の半分以下になっています。 1000兆円の公的債務の返済や増大する財政需要に答えるための来年度からの相続税増税ではない、これは消費税に任せる、というのが政府の方針のように見えます。相続税の課税最低限がバブル時に5千万プラス1千万に引き上げられ、その後の不動産や株式など資産デフレが進行することによって相続税等を納める人が半減したという現状でしょう。国税収入50兆円のうち5%なら多くて3兆円、比重は大きくない。消費税は逆累進性という性格から上げにくく、そのかわり多少資産のある人は相続税を払って下さいという一種のバランスを取る感覚から、今回の増税に踏み切ったのだと思われます。 |
![]() 相続税の節税本やハウツーもの、国税庁のタックスアンサーなどに出ていますので、ごく簡略化して説明します。 |
1.各人の課税価格と課税価格合計額の計算 @まず、相続や遺贈によって財産(これには、財産を取得した相続人等が、被相続人の死亡前3年以内にその被相続人からの贈与によって取得した財産も含まれます)を取得した人ごとに、財産の価格(相続税の評価額)を合計します。なお後で述べる生命保険金の非課税額や小規模宅地等の特例による減額、債務や葬式費用などはこの段階で控除します。 A上記の金額を合計し、この相続に係る課税価格合計額を算出します。 2.相続税の総額の計算 @「1.」の課税価格合計額から基礎控除額(平成27年より、3000万+600万×法定相続人の数)を差し引いて、課税遺産総額を計算します。 A課税遺産総額を、各法定相続人が法定相続分に従って取得したものと仮定して、各法定相続人の取得金額を計算します。 B各法定相続人ごとの取得金額に税率を乗じて計算した金額を合計し、相続税の総額を算出します。 3.財産を取得した相続人等ごとの相続税額 @「2.」の相続税の総額を「1.@」により計算された各相続人等の取得した財産の価格で按分します。相続人でない一定の者には加えて2割加算があります。 A各相続人等の税額から税額控除額(贈与税額控除、配偶者の税額軽減など)を差し引き、各人の納付税額が確定します。 (注)相続時精算課税 については、特定贈与者(相続時精算課税に係る贈与者(親)をいう)が死亡した場合には、相続時精算課税の適用者(受贈者)が特定贈与者から相続又は遺贈により財産を取得しない場合であっても、その適用を受けた贈与財産は相続又は遺贈により取得したものとみなされ、贈与の時の価額で相続税の課税価格に算入され、相続税の納税義務者となります。 |
![]() 墓地や墓石、仏具には相続税はかかりません。これは先祖の祭祀のため世代代わりごとに維持され、永久に処分されないという性質から非課税とされるものです。もっとも礼拝の対象とされず趣味で保有している金の仏像なら、財産価値はあるので課税の対象となります。その他社会通念や遺族の生活に配慮して課税されないものもあります。死亡保険金や死亡による退職手当金等のうち一定額、死亡弔慰金などがそれです。なお、墓所や霊廟に準ずるものとして庭内神しの敷地が相続税の非課税財産とされた事例(東京地裁平成24年6月21日判決)があります。 |
![]() 相続税は原則として、死亡した人の財産を相続や遺贈(死亡を原因として効力を生ずる贈与を含む)によって取得した場合に、その取得した財産(現金、預貯金、有価証券、宝石、土地、家屋などのほか貸付金、特許権、著作権など金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのもの)に対してかかることになっています。 なお、死亡退職金、被相続人が保険料を負担していた生命保険の死亡保険金 も、第三者が払うものであって被相続人の財産から支払われるものではないにしても死亡を原因としていることから、相続や遺贈によって取得したものとみなされており(みなし相続財産)、課税の対象となります。ただし、相続人が支払を受ける金額について、法定相続人1人当たり500万円の非課税枠が設けられています。 |
![]() 不動産のマーケットでは、仲介業者が広告をする際にマンションにしろ一戸建てにしろ、土地・家屋一体で査定して売出価格を決めます。売買が成立すれば相場の一要素となります。相続税で財産評価をする場合、一般には――土地が高騰したバブル期は特に――実勢価格より安くなります。さらに、土地と家屋を分けて評価するのが特徴です。 |
1.土地
評価方法には、路線価方式と倍率方式があります。路線価図や評価倍率表は、各税務署に置いてありますが、国税庁ホームページで誰でも見ることができます。 @路線価方式 市街地では、路線(道路)に面する標準的な宅地の1平米当たりの価額(路線価)が付いており、評価額をざっくり計算するなら路線価にその宅地の面積を乗ずれば出てきます。その土地の形状等によっては奥行価格補正率などの各種補正率で補正して正確な評価額に近づけることができます。 A倍率方式 路線価が定められていない地域では倍率が定められ、その土地の固定資産税評価額(都税事務所、市区役所や町村役場で評価証明を取れます。ただし本人やその親族以外の人が取るには委任状が必要な場合があります)にその倍率を乗じて計算します。 2.家屋 固定資産税評価額に1.0倍して評価しますので、その評価額は固定資産税評価額と同じです。 賃貸されている土地や家屋については、借地人や借家人に占有されている部分があり使用が制限されますので、その分評価額が減じられることになっています。また、居住用、事業用、同族会社の事業用及び貸付事業用の宅地等については、一定の要件を充たせば、これとは別に次に述べる小規模宅地等の特例による80%または50%の減額をすることができます。 |
![]() 被相続人の土地が被相続人またはその生計一親族の居住用または事業用に使用されていた場合には、その土地を相続により取得した親族の相続税の課税価格について、評価額の80%または50%の減額を受けることができるという特例です。ただし、減額について限度面積、取得者要件、継続使用・継続所有など一定の制限があります。 ┌───────────────────┬─────────────┬────┬────┐ │ 被相続人及び生計一親族の利用区分 │ 要 件 │限度面積│減額割合│ ├───────────────────┼──┬──────────┼────┼────┤ │居住用 │ @ │特定居住用宅地 │ 330u │ 80% │ ├────┬──────────────┼──┼───────┬──┼────┼────┤ │ │貸付事業用以外 │ A │特定事業用宅地│ │ 400u │ 80% │ │ ├──────────────┼──┼───────┤ ├────┼────┤ │ │ │ │ │特定│ │ │ │ │ │ │特定同族会社事│事業│ │ │ │事業用 │ │ B │業用宅地(一定 │用 │ 400u │ 80% │ │ │貸付事業用 │ │法人事業用) │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ ├──┼───────┴──┼────┼────┤ │ │ │ C │貸付事業用宅地 │ 200u │ 50% │ └────┴──────────────┴──┴──────────┴────┴────┘ |
(注)適用できる限度面積を選択する際の判定基準 1.特定居住用宅地(@)または特定事業用宅地(AまたはB)を選択する場合 @≦330u または A+B≦400u であること 2.貸付事業用宅地(C)及びそれ以外の宅地(@、AまたはB)を選択する場合 @×200/330+(A+B)×200/400+C≦200u であること |
![]() 平成27年からの相続税「大増税」によって、従来なら課税最低限の枠内に収まっていた「自宅と預貯金が少々」の家庭にも相続税がかかってくるのではないかと危惧される向きが多いと思います。「相続税を払うために自宅を売却しなければならないのではないか。」そんな心配の声が聞こえてきます。でもご安心ください。平成26年より、特定居住用宅地等として価格の80%が軽減される特例の面積限度要件が240平米から330平米に拡大されました。330平米と言えば100坪、都市部ではかなりの大邸宅ではないでしょうか。 仮にご自宅が実勢価格3000万としても路線価は0.8をかけて2400万円。2400万円×(1−0.8)=480万円にしか評価されません。後は他の資産を足して基礎控除額に収まるか計算して下さい。 なお、上述のように、小規模宅地等の特例における事業用、居住用、貸付事業用の面積限度要件は、改正前は合計面積に限度が設けられていましたが、平成27年から事業用は400平米、居住用は330平米まで各独立に適用できることになりました。貸付事業用の適用については、居住用と事業用で適用した面積について生ずる一定の余裕面積について最高200平米まで認められることになりました。 |
![]() 平成26年1月以後の相続または遺贈より 二世帯住宅と老人ホーム についての特定居住用宅地等に係る適用範囲が拡大されました。 |
配偶者の税額軽減 |
![]() 配偶者が遺産分割や遺贈によって財産を取得した場合には、その法定相続分に相当する金額までは相続税がかかりません。また法定相続分を超えて取得しても1億6千万円までは、同様に相続税がかかりません。申告期限 までに分割されず取得しなくても、「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告期限までに提出すれば、その後3年内に分割したときに税額軽減が受けられます。 父(母)が亡くなる第一次相続ですべて残された母(父)が財産を取得すると税金がかからなくて済むのでよいのですが、父母世代で残した財産は、残された配偶者の死亡による第二次相続(子供世代での分割)で分割がまとまらなかったり、多額の相続税を払わなければならなくなることも多いのです。第二次相続を見据えて第一次相続で子にある程度取得させるような配慮が必要になります。 |
相続時精算課税制度 |
![]() 60歳以上の親から推定相続人である成人した子供または孫への贈与につき贈与時の価格で2500万円までは贈与税がかからない制度です。この制度は基本的には贈与を相続税の課税の枠内に取り込むもので、贈与された財産はその贈与者の相続のときに相続により取得されたものとみなされてしまう、またこの制度を選択した場合、その親や祖父母との関係では暦年贈与を採用できなくなるところに難点があります。 |
賃貸不動産など収益物件や値上がりしているか値上がりしそうな資産を贈与すればある程度の節税メリットはあります。特に所有資産に再開発による収用が予定されている、都市計画道路予定地に指定されたなどの場合には、その地域の地価が上昇しこの制度を使うのが相続税の軽減につながることもあります。 では、将来相続争いが予想される場合にこの制度を利用して特定の推定相続人が他の推定相続人に機先を制して親から余分に贈与を受けてしまおうという考え方があります。うまく行くしょうか。残念ながら、他の相続人の遺留分を害することになればその相続人から価格弁償の請求を受ける可能性はなくなりません。 |
相続により取得されたものとみなされるとは言っても、相続した被相続人の土地に適用される小規模宅地等の特例はいっさい使えませんので、利害得失をよく吟味してから適用を決断する必要があります。 |
この2500万円という枠は、基礎控除が5000万+1000万×法定相続人数であるとき(平成26年までの相続と遺贈)に相続税がかからないように設計された金額であり、平成27年以降に相続があれば予期に反して相続税が出てしまうという危険をはらんでいます。その予定でこの制度を選択した人の中にはババをつかんでしまう人が出てきてしまうのです。 |
債務控除と葬式費用 |
![]() 財産を相続する場合には同時に借金など債務も相続しなければなりません(債務を全額相続したくないときは相続放棄や限定承認をします)。そのかわり、相続税の計算上差し引くことができます。その他葬儀のための費用は亡くなってから発生しますが、債務と同様に扱われ、相続税の計算 上控除することができます。 なお、住宅ローンは通常、団体信用生命保険(団信)が付いているため相続と同時に一括返済されるので、相続する債務には含まれません。 |
1.差し引くことができる債務等 差し引くことができる債務は、被相続人が死亡した時にあった債務で確実と認められるもので、被相続人に課される公租公課などが含まれます。そのほか、葬式費用のうち一定のものは、相続税を計算するときは遺産総額から差し引くことができます。 2.遺産総額から差し引くことができない債務 被相続人が生前に購入したお墓の未払代金など非課税財産に関する債務は、遺産総額から差し引くことはできません。 3.債務や葬式費用を遺産総額から差し引くことができる人 債務などを差し引くことのできる人は、その債務などを負担することになる相続人や包括受遺者(相続時精算課税の適用を受ける贈与により財産をもらった人を含む)です。 なお、相続人や包括受遺者であっても、相続又は遺贈により財産を取得した時に日本国内に住所がない人で次のいずれにも該当しない人は、遺産総額から控除できる債務の範囲が限られ、葬式費用も控除することはできません。 @相続や遺贈によって財産を取得した時に日本国籍を有し、被相続人若しくは財産を取得した人が被相続人の死亡前5年以内に日本国内に住所を有したことがある A相続や遺贈によって財産を取得した時に日本国籍を有しないが、被相続人が日本国内に住所を有していること 4.葬式費用 @葬式費用となるもの 遺骨の運搬費用等、通夜や告別式及び納骨の費用、葬式に当たりお寺・神社・教会等に対して支払うお布施、神饌料、お花料等のお礼 A葬式費用に含まれないもの 香典返しのためにかかった費用、墓石や墓地の買入れや借入費用、死者の追悼供養のための初七日や法事にかかった費用 |
![]() 葬儀を家族のみの内輪で済ませ、後日知人や関係者を招いて「お別れ会」をすることが多くなってきました。このような「お別れ会」の費用で死者の追悼供養のための儀式とみられるものは、葬式費用として計上できません。「お別れ会」の実質が納骨式であり読経や焼香等が伴うようなものは、死者を葬る儀式に含まれるとして葬式費用と解すべき余地もあるでしょう。 |
![]() 差し引くことができる債務は、被相続人が死亡した時にあった債務で確実と認められるものに限られますので、連帯保証債務を相続しても差し引くことはできません。 被相続人が同族会社の社長として会社の借入金の連帯保証人となっている場合に単純承認 したときは、承継する後継者ばかりでなく、会社にタッチしていない相続人も連帯保証人の地位を引き継いでしまいます。わかっている場合はまだよいのですが、死亡当時は知らなかった知人の借金の連帯保証人になっていたことが後日に判明することもあります。主たる債務者が破綻して債権者から支払を求められる例もありますので、よく調査しておくことが重要。時間がかかりそうなときは、家裁にその旨を説明して3ヶ月の熟慮期間を伸長してもらうこともできます。 |
平成26年12月15日 |
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