勤 勉 |
To be successful |
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重役や大学教授の息子に秀才が多いのは、もともと彼らの子供が頭脳明晰だからではなく、勉強せよと叱咤されるからでもなく、父親の出世の原動力となった、生活態度の生真面目さ、実直、精励等を父との家庭における共同生活を通じて模倣するためである(親父の背中を見て子は育つ)。この清教徒的な禁欲主義、生真面目さは、物事を達成するのに大きな武器になる。OLたちはそれ故会社の中で「襟の汚れた、あるいは靴を磨いてない男子社員は出世しない」と考え、近づかないのである。 |
成功も失敗も癖である、という東欧のユダヤの諺がある。勤勉と人生における成功は表裏の関係にあると言われる。しかし勤勉とか怠惰は、本性によって働き者であるかと言うより、習性になっていることが多い。それは家庭環境や躾、教育が影響している。低血圧の人間には朝いつもより3時間早く起きて仕事をする(勉強する)というのは辛いことである。しかし歯を食いしばって1週間やってみると、2週間目からは自然と早起きの習慣がつき、早起きして机に向かわないとかえって体の調子が悪くなることがありうる。成功することも一種の癖である。 |
成功論は耳にタコができるほど聞き飽きている向きもおありだろうが、私の好みを言うと、
(1)成功するのに王道はある。とにかくマメな人間である。つまらない仕事を率先してやる、机の上だけで考えず、とにかくやってみる人。部下のやったことを穿鑿せず、また責めないこと。仕事で人に認められたいと思っていい仕事をやろうとしない部下はいない。マメであることが必要なのは、モノに対してと同時にヒトに対してもだ。清潔感のない人には誰もついてこない。
(2)成功しないことにも王道はある。失敗の原因として最も多く見られるのは、一日伸ばしの傾向だ。ユダヤの諺に、「金持ちになる方法は一つある、明日やることを今日やり、今日食べる物を明日食べる。」 また、二宮 尊徳も「貧者は昨日のために今日働き、富者は明日の為に今日働く」と同じようなことを言っている。それから向上心がないこと。富を得るのには努力が要るが、貧乏になるのに努力は要らない。また、素直さと誠実さのない人は成功しない。 |
事業を興して成功する人のタイプは決まって理論より実践を重視している。世の中の現実は複雑系の科学でも解明されてはいない。「とりあえずやってみるしかない。」 成功するという見通しを付けてから行動を起こそうという人は、いつまで経っても決断できない(文学者H・F・アミエル)。人間は将来を見通せるほど明晰ではないからだ。 |
数学者の藤原正彦氏は受験に例えて成功ということについて述べている。受験戦争を勝ち抜くための必要条件は、馬鹿になれること。人生の意義やらと言った大問題を深刻に考えてはいない。ただ阿呆のように志望校突破だけをひたすら思い続けて努力することに尽き、そのように馬鹿たりうる人間だけがこの戦争に勝つ(藤原正彦・数学者の考えでは)と。多くの人はなかなか馬鹿になれない、そうなれること自体が偉大な才能であるとさえ言ってよい(同著)。そう、馬鹿になれる人だけが世の中で成功しているというのは冷厳な事実だ。勝海舟も理論より実際を重視した;「事を成し遂げる者は愚直でなければならぬ。才走ってはうまくいかない。」 |
行動は頭を白紙にしておいた方がよい:咸臨丸でアメリカに渡った勝海舟が言う「外国へ行く者が、よく事情を知らぬから知らぬからと言うが、知って行こうというのが良くない。何も用意しないでフイと行って、不用意に見て来なければならぬ。」
若いときの私は旅行というものが大の苦手だった。旅館の予約をしたり、旅程を決めるだけで疲れてしまい、また決めたところで行っても旅程に拘束されてしまい、ちっともくつろげない。いっそ出歩かない方が金がかからなくてよいと思ったりもしたが、そうすると行動力のない自分が嫌になりメゲてしまう。一念発起して予約を一切しないブラリ旅に一人で出かけることにした。すると、今までのモヤモヤ感が霧が晴れるようになくなり、辿るべき道程がひとりでに開けるのである。
勝海舟の行動力もこのようにして磨かれたのではないだろうか。
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平成16年7月25日
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